マヨネーズがお金並に大事な概念の世界の話
でもみんなそんなにマヨネーズが好きなわけではないし、普通に食べる。
この物語の主人公。そう、仮に、僕としよう。
「僕」はまずまずの家庭と町に生まれ育ち、そこそこの国立大学を4年前に卒業して今はなかなかに名の知れた商社に勤めている。
マヨネーズに不自由した日も、マヨネーズについてよく考えてみた日も、今まで一度もなかった。
マヨネーズでセックスだとかなんとか言っていた時期もあったが(正確にいうと僕は「言って」はいない,聞いていた)4年だか7年だか経つと本当にそんな時期があったかさえあやふやなものだ。
しかしながら先にもふれたように、だれもマヨネーズの事で悩むことも喜ぶこともない。
さしずめ現在の僕のように右手と左足が手錠で繋がれた状況で,壷いっぱいのマヨネーズをマングースに均等に与えないといけないという状況を除いては。
「まずは均等の定義から考えよう。」
僕は孤独感を少しでも和らげようと、声に出して言ってみた。
しかしどん欲なマングース達は僕の言葉を端から食べ尽くし、後にはゲップとさらに大きな孤独が残った。
「この空間で言葉は無意味だ。俺を増長させるだけだぜ。」
孤独が口もないのにそんなことを言った。
同じ時刻、新宿のはずれにあるバーでエリはすっかり気の抜けたシャンディガフを飲み干して、深いため息を吐き、新しいタバコに火をつけた。今日一日をエリは昨日突然死んだ姉のことを考え、そしてそのおそらく直接の死因であろうマヨネーズについて考えて過ごした。エリの姉はエリの人生にとってとても無意味な存在であったし、マヨネーズについても同じだった。
言ってしまえば姉もマヨネーズも等価なのだ。肌が白い人だったからそのようにまとめてしまってもいいのかもしれない。私とは対照的にどんな集団にも目立ち過ぎずに欠かせない存在になる姉の性格もマヨネーズと同じなのだろう。同じ親から生まれたのに浅黒い肌でブサイクで気の利かない私に「エリ」という名前はもったいないのだ。
こんな具合に私の思考は自分を卑下するところに行きつく。そして自分を卑下したところから―コインの表から裏に返し、また表にするように―また自分とは真逆の出来の良い人のことを考える。名前はうまく思い出せないが大学のサークルの先輩は、そつなく大学を卒業して名の知れた商社に就職したと噂で聞いた。
うまくいく人はマヨネーズを得る。得たマヨネーズでさらにうまくいく。じゃあマヨネーズを持っていない私はどうなる?最初から持たざる私には、マヨネーズなど高値の華なのか。いや、マヨネーズ自体が価値なのだから、マヨネーズに高値も安値もない。思考がどんどん混濁していく。
「マヨネーズについてお考えですか?」
男が現れた。いつからそこにいたのか、それすらわからないほど酔っていたのか、男は空気をかき回してできたみたいに突然やってきた。
「なぜわかるのかしら。」
私はそう聞き返した。
男は右手にはめた大きめの腕時計をちらっと見て、少々時間をいただけないかと言ってきた。
私は本当に酔っていたのだ。その提案を受けてしまったのだから。
男はこう話しを始めた。
「私は以前、マングースと縁がありましてね‥‥」
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