2012年2月16日木曜日

新年一発目

年賀状を出さなければと思った次の瞬間にはすでにバレンタインが過ぎているという、月日の流れるのは矢の如しと申しますが、もはや第2宇宙速度を超えて矢は地球へは帰ってこないのではないかと思いますサッコン、いかがお過ごしでしょうか。

私は今地球を離れ遠く土星にある北海道という場所からいつ地球を滅ぼそうかと仲間達と日々喧々諤々の議論を交わしております。仲間というのはペンギンとクマです。土星はとても寒く、大気が薄いので息苦しいです。土星はガス惑星だとされていますが実際は岩石と岩石そっくりの砂糖できています。コーヒーに岩石そっくりの砂糖を添えるのですがそこに普通の岩石をこっそり混ぜておくのが土星流ジョークです。何人かはそれで前歯を失いました。一人はそのあと欠けた前歯から流れ込んだ熱々のコーヒーでやけどしました。2度の不幸は幸福と同じだ、とは土星で2番目に有名な作家の言った言葉です。その作家はタイタンに移住したあと200年は音沙汰を聞きません。新作執筆中、の文字がタイタンの表面にまだ残っています。タイタンというのは土星の衛星で、その名の通りとても大きいです。メタンの川や湖がある風光明媚な土地で、土星では避暑地として人気です。土星にも夏はあります。といっても

というわけで今年もよろしく。

2011年5月23日月曜日

くまボール

ある例年通りの異常気象の冬、私は北海道を回ることにした。長期間取り組んでいた小説が一段落し、休息をとるための旅行が必要だった。カーフェリーで上陸し、海沿いをドライブしていくことにした。旅はおおむね順調で、私の心は求めた癒しを効率よく摂取していった。
ある日、私は港の近く、こぢんまりとした森にある民宿に泊まった。木組みのコテージは暖かみのある雰囲気で、とても好感がもてた。家族で経営しているようだったが、誰もが仕事に熱心で真摯だった。世界中の民宿がこうあればいいのに、そう思わせる素晴らしい宿泊施設だった。
夕食の席で、元公務員の男は10年ほど前から民宿を営んでいると私に話してくれた。不器用そうだが愛嬌のある振る舞いで、公務員よりよほど今の仕事の方が向いているだろうな、と私に思わせた。奥さんは気さくなおばちゃんといった感じで、本当に明るく感じのいい夫婦だった。夫婦には一人娘がいた。14歳で、両親に似て朗らかなかわいらしい女の子だった。スポーツをやっているらしく、健康的な立ち姿だった。
次の日の朝、玄関に行くと娘さんの姿があった。どこに行くのかと尋ねると、これから「くまボール」の練習に行くといった。娘さんは地元のスポーツ「くまボール」の選手とのことだった。聞いたこともないスポーツに興味が湧き、練習に同行させてもらうことにした。道中スポーツの概要について聞いてみたが、見たらわかりますよ、ともったいぶって教えてくれなかった。手には飼い猫を入れたカゴをさげ、肩からスポーツバッグをかけていることしかわからなかった。
ついた先は港だった。停留中の船にも雪が降り積もり、あたりは白く静かだった。娘さんはスポーツバッグとカゴを地面におろし、バッグから取り出した袋に手をつっこみあたりに緑色の粉をばらまいた。聞くと、これでミドリカモメをおびき寄せるらしい。ミドリカモメなどというカモメは聞いたことがなかったが、地元の呼び名かもしれない。そのうちそのミドリカモメとやらがやってきたが、普通のカモメとの違いはわからなかった。
娘さんは飛んでいるカモメをそのまま引き寄せ、背中に猫を乗せた。カモメはおとなしく全てそれに従っていた。カモメがうまく猫を背中に乗せられないといけない競技のようだ。その後猫を降ろし、娘さんはなんとその場にとどまったままのカモメの翼の一部をはさみで切り出した。どうやらそこはカモメが飛ぶのに重要な部位らしく、その後そのカモメを前方に思い切り放り投げた。案の定カモメは飛ぶことができず、海岸手前の雪に突き刺さった。どうしてこんなことをするのか、聞くところによるとこうしてカモメの質を見極めているらしかった。みるみるうちに海面やら雪面やらにカモメが何羽も突き刺さっていった。
私はずっと考えていた。いったいいつになったらくまとボールが登場するのだろうか。このばかげたスポーツは、いったい何羽のカモメを犠牲にし、何匹の猫を寒空の下震えさせているのだろうか。「くまボール」のいったい何がこの少女を惹きつけるのだろうか。

2011年2月7日月曜日

ちっぱいちょっとあーる事件

[11:35:28] 友達: おしること玄米スープでここ最近乗り切ってた
[11:35:55] 自分: おしるこがおしっこに見えた俺はおちんこ
[11:38:08] 友達: もうやだこの国
[11:38:36] 自分: ♪おっぱーいおっぱーいおっぱーいぱーい
[11:39:21] 友達: ちっぱい/
[11:39:44] 自分: 今おっぱい的にBluetoothヘッドホンでも探そうかと思ってたんだが
[11:39:46] 自分: なんかいいのないかな
[11:39:58] 自分: 俺あの挿入型苦手なんだよな
[11:40:17] 友達: ああ、おっぱいね
[11:40:23] 友達: そりゃーおっぱいだわ
[11:40:27] 自分: だろ?
[11:40:29] 自分: おっぱいだからさー
[11:40:33] 自分: おっぱいだしね
[11:40:43] 友達: ヘッドオッパイでいいとおもうんだけどそれはそれで乳だしなあ
[11:41:15] 自分: http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=14825935
[11:41:19] 自分: こういうことですね
[11:42:49] 友達: ああだいたいこんなおっぱいだわ
[11:42:58] 自分: やっぱりおっぱいだよな
[11:43:03] 自分: やっぱい
[11:43:10] 友達: でも僕はね
[11:43:29] 友達: やはりこう手中に収められる感じが一番だと思うの
[11:43:45] 自分: でもそしたら耳にフィットしないおっぱい
[11:44:03] 友達: いいよそれがおっぱいのモノラル放送なら
[11:44:15] 自分: おっぱいモノラル放送
[11:44:22] 友達: いま名言が生まれた
[11:44:26] 自分: ただようアナログ臭
[11:44:37] 自分: 俺はデジタル派だからおっぱいステレオだよ
[11:44:40] 友達: ホリケンが叫びそうだ
[11:44:43] 自分: むしろおっぱい5.1チャンネルだよ
[11:44:43] 友達: おっぱいモノラル放送!
[11:45:01 | 11:45:03を編集しました] 友達: おっぱいの地デジ化はすんでますか?
[11:45:23] 自分: ケン「ちょっと泰造こっちきて」
泰造「こう?」
ケン、泰造の胸に耳を当て
ケン「おっぱいモノラル放送!」
[11:45:41] 友達: これ投書しようぜ
[11:45:47] 友達: 絶対採用される
[11:46:02] 自分: 何に投書するんだ
[11:46:26] 友達: ケン「師匠、おっぱいを聞く時間です」
師匠「おうおっぱいやなわかった」
ケン「おっぱいステレオ放送!」
[11:47:51] 自分: いみわからへんわ!
[11:49:05] 友達: -----ここまで深夜テンション
[11:49:12] 友達: ----ここからも深夜テンション
[11:51:40] 自分: えーまあ引き続きおっぱいなわけですが
[11:52:20] 友達: おっぱいっていうよりも・・こう・・・PIEPIE
[11:52:27] 自分: ぴ、ぴえぴえ
[11:53:07] 友達: ぎえPIE!!!!!
[11:53:29] 友達: おっぱいあーる参上
[11:53:45] 自分: ちっぱいなーいとおっぱいあーるの戦い
[11:53:56] 自分: http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=16439781
[11:54:02] 友達: 良く勘違いされるのですがね
[11:54:07] 友達: 貧乳と無乳
[11:54:12] 友達: これは似てて日なるものです
[11:54:15] 友達: ぼくは
[11:54:22] 友達: 貧乳を愛しているのであって
[11:54:28] 友達: まな板などには興味がないのです
[11:54:35] 友達: なので
[11:54:39] 友達: なにがいいたいかというと
[11:54:43] 友達: ちっぱいなーいでは
[11:54:48] 友達: まな板ではないのかと
[11:54:51] 友達: 僕はそういいたいのです
[11:54:57] 友達: いうならば
[11:54:57] 自分: 比較おっぱい学の見地からいうとないと言っても差し支えないのですが
[11:55:01] 友達: ちっぱいちょっとあーる
[11:55:02] 自分: せっかくならちっぱいちょっとあーる
[11:55:05] 友達: でいいのではないでしょうか
[11:55:05] 自分: おいかぶったぞ
[11:55:17] 友達: こんなところかぶるとか予想外すぎるわ
[11:55:17] 自分: なぜここでシンクロ
[11:55:20] 友達: どういうことだよ
[11:55:25] 友達: これはヤバいな
[11:55:26] 自分: わけがわからない
[11:55:28] 自分: 俺らヤバイわ
[11:55:31] 自分: 本格的にやばいわ
[11:55:37] 友達: 人生生まれてきて一番やばいシンクロを体験したわ
[11:55:42] 自分: ちっぱいちょっとあーる
[11:55:48] 自分: なんでシンクロするんだよ!!!
[11:55:51] 友達: 多分これからもこんなひどいシンクロないと思うよ
[11:56:00] 友達: なんだよちっぱいちょっとあーるって
[11:56:01] 自分: 今日は記念日にして一生忘れないようにしよう
[11:56:04] 友達: おなか痛いわ
[11:56:07] 自分: 意味不明だよちっぱいちょっとあーるって
[11:56:19] 友達: テスト前に爆笑させんじゃねえよ
[11:56:35] 友達: だから今日は貧乳記念日
[11:56:48] 自分: ブラボー!ブラボー!
[11:56:54] 自分: 記念にテキストファイルにログをとっておいた
[11:56:59] 自分: 生き恥
[11:57:02] 友達: しかもどちらも違う視点からもの語ってるのに
[11:57:10] 友達: いk付く終着点でシンクロするとはね
[11:57:12] 友達: しかもそれが
[11:57:15] 友達: ちっぱいちょっとあーる
[11:57:25] 友達: 頭おかしいにもほどがあるわ
[11:57:28] 自分: ゴロ悪すぎ
[11:57:31] 自分: やばいな
[11:57:37] 自分: テスト勉強は人を駄目にするな
[11:57:39] 友達: これ・・・昼間なんだぜ・・・
[11:57:46] 自分: うそだろ・・・・
[11:57:55] 自分: 今夜の11時57分でしょ・
[11:57:57] 友達: これは奇跡だな
[11:58:08] 友達: 飲み会のネタにしてしかるべき
[11:58:31 | 11:58:34を編集しました] 自分: これ他の友達にメールで送ろうっと
[11:59:46 | 11:59:52を編集しました] 友達: 俺もこれは保存しておこう
[12:00:18] 自分: ログに時間まで残ってる
[12:00:22] 自分: 真っ昼間になんてことを
[12:00:51] 友達: これは代々受け継がれるべきコピペ
[12:01:15] 自分: 2ちゃんに投稿してもいい
[12:01:53] 友達: これは評価される
[12:02:00] 友達: ちっぱいちょっとあーる事件
[12:02:06] 自分: ほんとに事件だよ
[12:02:12] 友達: いや大事件だよ
[12:02:12] 自分: 激震が走るよ世界に
[12:02:20] 友達: 俺達の人間性が大事件だよ
[12:02:42] 自分: 悲しい事件だったな・・・・
[12:02:57] 友達: 誰も・・止められなかったのかな・・・・
[12:03:10] 自分: 君はこの謎が解けるか!
[12:03:19] 友達: いかんちっぱいちょっとあーるがあとからじわじわくる
[12:03:32] 友達: やっぱり頭おかしいわ
[12:03:41] 自分: まず元がおかしいからね
[12:03:43] 自分: おっぱいあーる
[12:03:49] 自分: それがちっぱいなーいになって
[12:03:57] 自分: ちっぱいちょっとあーるでシンクロするという奇跡
[12:04:01] 友達: ぱいあーるさんじょう
という公式が引き起こした悲しい事件だよ
[12:04:08] 自分: 真実はいつも一つ
[12:04:15] 友達: よんぱいあーるさんじょう
[12:04:15] 友達: だっけか
[12:04:28] 自分: みのうえにしんぱいあーるさんじょう
[12:04:37] 友達: 俺的には
[12:04:41] 自分: よんぱいあーるじじょう
[12:04:48] 友達: タキシード仮面参上的な意味で使ったのだが
[12:04:56] 友達: まさかこんな事件を引き起こすなんてね
[12:05:05] 自分: タキシード仮面様もびっくりだよ
[12:05:20] 友達: タキシード仮面様も泣いて喜ぶよ
[12:05:37] 友達: ちっぱいちょっとあーる参上!
[12:05:51] 自分: ちっぱいちょっとあーる様!!!
[12:06:11] 友達: やっぱり頭おかしさがあらわになっていくわ
[12:06:21] 友達: ちっぱいちょっとアール様!
[12:06:24] 友達: じゃねえよ!!!
[12:06:29] 友達: やかましいわ!!!
[12:06:29] 友達: おなかいたいんですけど!!!
[12:06:44] 自分: 腹筋崩壊した
[12:06:46] 自分: 自分でいったのに!
[12:06:51] 自分: 自分でいったのに!
[12:06:59] 友達: あのちょっと嬉しそうな声でミサトさんが言うんだろ
ちっぱいちょっとアール様!
[12:07:27] 友達: ちっぱい「みんな・・無事か・・!?」
[12:07:38] 友達: 「ちょっとアール様・・・・////」
[12:08:00] 自分: 男なのにちっぱいちょっとあるのかよ
[12:08:09] 自分: 小デブじゃねえか
[12:09:03] 友達: それを名前につけるとかちょっとちっぱいあるの自慢してんじゃねえよ
[12:09:09] 友達: 完全に変態じゃねえか
[12:10:03] 自分: それでなんでみんな「ちょっとアール様・・・・///」とか照れてんだよ
[12:10:16] 自分: 完全に上半身むき出しのおっさんしかうかばねえよ
[12:10:28] 友達: タキシード仮面様もまさか時代を超えてこんな変態トークに引き合いに出されるとは予想付かなかったろうな
[12:11:06] 自分: でもタキシード仮面様も変態の称号にふさわしいお人だよ
[12:11:13] 友達: ならいいか
[12:11:14] 自分: むしろ元祖変態みたいなところあるじゃん彼
[12:11:19] 友達: まこちゃん・・・
[12:12:37] 自分: ちっぱいちょっとあーる様とタキシード仮面様夢のコラボ
[12:14:26] 友達: そもそもちっぱいちょっとアール様が男っていう設定がおかしい
[12:14:33] 友達: 自分で言っといてなんだけど
[12:14:37] 友達: なんだ設定って
[12:15:53] 自分: ちっぱいちょっとあーる様女か
[12:16:05] 自分: そういや最初はおっぱいあーると戦うんだったな
[12:16:18] 友達: だってあれだろ
[12:16:27] 自分: 新魔法少女シリーズちっぱいちょっとあーる
[12:16:29 | 12:16:37を編集しました] 友達: おっぱい至上主義世界大戦のはなしだろ?
[12:17:00] 友達: ポロンブスが新おっぱいみつけるんだよ
[12:18:18] 自分: なんだよポロンブスって
[12:18:25] 自分: ポロンブスやべえ
[12:18:33] 自分: はらいてえよポロンブス
新おっぱいをめぐっておっぱい派とちっぱい派が対立
[12:20:03] 友達: パイ・オツ・ポロンブスの卵
[12:20:04] 自分: おっぱい至上主義世界大戦の勃発である
[12:20:24] 自分: タマゴの上に乳首がある物体を想像した
[12:20:31] 自分: ポロンブスの卵
[12:20:39] 友達: 今日の俺たちは何かがおかしいよ
[12:20:48] 友達: おっぱいに支配されている
[12:21:17] 自分: これもちっぱいあーる様の力か!

2011年1月14日金曜日

海岸フットボール

ランスとダニーがいるのは1年ほど前に町のはずれにできた倉庫のように大きい巨大スーパーの隅のゲームコーナーで,1週間分の食材を買い込んだ寄り道だった.ランスは重い荷物を肩から下げたまま新しいスーパーに似合わない古いゲーム機にもたれて,騒々しい電子音を聞いていた.「その余ったコインどうする」すっかりコインを使い果たしたダニーが聞いてきた.「いるならやるよ」ランスは積んでいた10枚のコインを押して渡した.ダニーは黙ってコインを2枚つまみ上げ,タイミングを合わせてゲーム機に入れた.ダニーが練習のない日に通っているスロットというものと,このプッシャーゲームは勝手が違うようで,彼はすっかり負け込んでいた.「このシーズン,俺はどうしたらいいんだろうか」ダニーはつぶやいた.コインは動いている板の真ん中に落ちた.「初戦に間に合わないのか?」ランスは聞いた.ダニーは無理だと答えた.ダニーは3日前のメージ(フットボールの練習の一つ.実践練習)で2度目の脱臼をしていた.ダニーはランスと違いラインの選手なので,そのような怪我をしやすい.そして一度脱臼した選手の多くにあるように,同じ部位を同じように脱臼した.「手術をすることになったのか」「決めていない」「そしたら自然に治るのを待つのか」「…決めていない」ダニーはコインを4枚とり,2枚は手のひらの中に,もう2枚はゲーム機に入れた.このプッシャーゲームと同じゲーム機は他に2台隣りに並んでおり,この一角だけ20年ほど昔のようだった.「手術してもしなくても,どうせ今は安静なんだろう.急ぐことはないさ」次はランスがコインを取り,ゲーム機に入れた.コインはプッシャーの下に落ちたが,他のコインを落とすことはできなかった.「自然に治すと2か月でいいんだ.初戦は間に合わないが復帰できる.でもそれではまた脱臼する可能性があるから,安心してお前を使うことが出来ないってコーチは言う.でも手術だと,ボルトやら金属やらを入れないといけないからもう半年必要なんだ.半年なんて,シーズンが終わってしまう!」「わかってる.でも今はどうしようもないんだろ?」「そうさ,だからどうしたらいいのか知りたいんだ!俺はどうすればいいんだってね!」デニーは手の中の2枚のコインを勢いよく入れ,それに続いておいてあったコインを11枚つまみ,次々と入れた.数枚は良い所におち,コインを押したが,多くはプッシャーの上の板に落ち,何も起こさなかった.「今まで以上に足でダンベルをあげて,今まで以上にチームに尽くせばいいんだ.でも,冬が終わって春になろうとしているのに,暖かくなったグラウンドに出る時なのにそれができないなんて,どうしたらいいのかわからなくなるんだ」自分に言い聞かせるようにしてデニーつぶやき,一呼吸をおいて最後のコインを入れた.プッシャーの下にうまく入ってコインを随分押したが,落とすまでに至らなかった.コインの動きは止まり,プッシャーだけが規則的に動いていた.デニーは椅子から降り,店の出口へ向かった.ランスも脱臼ではないが怪我をしたことがあったので,デニーの気持ちを理解できた.何か気の利いたことを言いたかった.しかし,ここはデニーに言いたいことを言わせるのがよいと思って,何も言わないことにした.そしてデニーが倉庫のような店の幹線道路のような通路を曲がろうとした時に,ランスも店から出ようと決めて立ち,歩き始めた.一歩目が地面を着くと同時ぐらいにゲーム機からコインが大量に落ちる音がした.ランスは自分がもたれていたから,今まで落ちるものも落ちなかったのだとすぐに気付いた.しかしもう歩き出してしまったし,戻ったところでどうしようとも思わないとわかっていたので,落ちるままにまかせて去ることにした.

2010年12月31日金曜日

寒い町 ひとつの町 それに先立つ私の旅行観

 12月の25日、私は一人で伊勢神宮に自転車で行ってきました。今年一番の寒さと騒がれた中、往復100キロほどの道程をシティサイクルで走る稀有な体験でした。このような特別なことをしている時にはどういうわけだか、普段気づかない事や不思議な体験が、曲がり角や坂のてっぺんの向こうで待ち構えているのです。この日もそれに漏れず、色々な面白いものを目にしたので、そのうちの一つを紹介します。

 その前に少し、電車での旅行と自転車での旅行の違いについてお話しさせて下さい。
「電車の旅行は自転車のそれとは違い疲れることがない」
「座るだけだから本を読むことも眠ることもできる」
ええ、仰るとおりです。しかし今回は車窓からの景色を、とりわけ、町の中を走っている時のものを思い起こして下さい。座席で外を眺める私たちは、旅行という<非日常>へ行く(あるいはその中にいる)のです。しかし、車窓の外は<日常>の時間が流れる町です。車窓から見える人はみな日常生活を送っています。車から荷物を運ぶ会社員、友達と追いかけっこをする小学生、洗濯物を干す主婦、車窓の外は<日常>で溢れています。しかしこれは自転車の旅行でも同じですね。自転車の上の自分は<非日常>でその周りは<日常>です。違うのはここではなく、この次です。
 電車から<非日常>な私たちが見るのは、無音の<日常>の「(ほぼ)静止画」ですが、自転車から<非日常>な私たちが見るのは<日常>をすごす人々の声を含んだ、いわば「動画」であることです。つまり、電車では<日常>の断片・切り取りしか見れないが、自転車の旅行では速度が遅いがために、道にある<日常>のストーリーを見聞きするのです。なので私は車中で窓による<日常><非日常>の境目や、電車と自転車のギャップに改めて気づく度に、どうしようも表現できない気持ちになるのです。

 それでは長くなりましたが、本題に戻りましょう。
 私が目にした、お伊勢参りの道中、ある市街地の端っこでの話です。

 そこには町に似合わないほど大きなケンタッキーフライドチキンの店がありました。そして満車の店の駐車場には、ケンタッキーの箱を抱え足早に歩くポニーテールの小さな女の子と、その3歩ほど後ろを釣り銭の計算をしながらゆっくり歩く両親の姿がありました。クリスマスパーティーの準備なのでしょう。女の子の手にはクリスマスチキンがあるのだとわかりました。しかし、女の子はどうしたことか、不満げに何かを訴えかけています。どうやらチキンが冷めることを心配しているようで、ついに女の子はその箱をマフラーでぐるぐる巻きにしてしまいました。そして私はその家族が赤い車に乗り込むことろまで見届け、通り過ぎたのでした。
 このように私は自転車で<非日常>な移動をしながらも、町の<日常>を掻い摘んで覗き見していたのです。そしてその後、もちろん長い道中であるために奇妙なものも目にしました。

 市街地から離れ、荒地と民家が交互に並ぶ平地を走っていました。前方遠くには開けた空き地があり、そこの中央には70歳ほどに見える背の高く痩せた老人がいました。やけに薄着で背を少し丸めた彼の手には、老人の肌と同じくらいに浅黒くなった木の棒があり、小刻みに地面を掻いていました。はじめは老人と距離があったため、その手にした棒が何なのかわかりませんでした。老人の10メートルほど手前に来た時にやっとそれが小ぶりな鍬なのだとわかりました(後日調べたところ草削り用の草掻鎌だとわかりました)。しかしその駐車場には草どころか土もありません。老人はただのアスファルトをただひたすらに、当然のことのように鍬をつかい引っ掻いていたのです。私はその光景に驚き、そしてそのすぐ後に狂気という言葉が浮かび、僅かに震えました。風の吹き荒れる気温が5℃しかない曇天の下、老人がアスファルトを整地しようとしているのです。本来なら痴呆症であろうと思い気の毒に思うのでしょうが、恐怖を覚えたのです。しかし私は老人から目を離すことなく、道なりに、真っ直ぐ、老人に向かって進みました。老人を抜かし、私の視界からなくなる残り10メートルまでに、論理的もしくは文学的に老人の行動を理解しようと、理解によって恐怖を振り払おうとしました。残り8メートル、彼は手に持つ鍬しか持っていないことを確認し、残り5メートル、そのアスファルトに変化がないことを確認して、残り2メートルで、老人と目が合い、彼の目は身の寒さは感じないということを物語っていることを知りました。


 このようにして私はすっかり老人に五感を奪われており、彼の逆側、つまり私のすぐ隣の車道への注意を怠っていました。田舎道であんなに見通しがいいというのにです。短いクラクションが私を正気に戻し、私は目を音の元へ――こちらへ曲がってくる赤い車へ向けました。車は止まり、後部座席の窓が開きました。そして大きな声が、
 「おじいちゃん!チキン買ってきたよ!」
さっきの女の子の声が聞こえました。

 結局私はその老人の行動を論理的にも文学的にも理解することはできないままでした。しかし私が掻い摘み、覗き見した<日常>のストーリーによって、私の心から恐怖はなくなっていたのです。こうして<非日常>者の寒い日の旅行の思い出として、ある町の家族の<日常>が残ったのです。そして今回、どうしようも表現できない気持ちを言葉に当てはめてみたのです。

2010年10月25日月曜日

リレー三題噺「マンホール」「シナモンシュガー」「貯金箱」


 やりようのないシナモンシュガー。


 この意味がおわかりになる人は日本にどれくらいおられるだろうか。 きっとシナモンシュガーがかかったパンをデスクワークの合間に考え事をしながら食べた人の中で、さらに床を汚したくないと考える紳士に限定されるだろう。つまり私はシナモンシュガーを膝の上にこぼし、このシュガーをオフィスの床にも落とすことができずに立ちつくして、いや、座りつくしているのだ。
 さて、この出来事がどうして文章にしてまでお話しする価値があるのかと、 疑問を持たれているであろうから、できる範囲で簡潔に説明しよう。話は昨晩の娘との会話までさかのぼる。

 
 途切れ途切れの、日常を日常として保つために行う、いつもの会話、少しの間の沈黙をおいた後、

お父さん、私ね、明日家を出ようと思うの。

 一月ほど前に十七才の誕生日を迎えたばかりの娘が、バラエティ番組を映し出すテレビの向こう側の壁を見つめるようにして、そう言った。
私が何と答えるわけでもなく、互いに動揺するわけでもなく、ただ時間が流れ、会話はそこで終わり、いつもと同じ時間同じ手順を踏んで、私と娘はそれぞれの寝床についた。
 翌朝起きてみると既に娘の姿はなく、娘の部屋からは、娘が小学生のときにゲームセンターで私がとってやったキャラクターの貯金箱と、いくらかの洋服と、リュックサックが消えており、台所の棚に置いてあった私の買い置きのタバコが二箱なくなっていた。

 妻は何も言わず二人分の朝食を食卓に並べ、私は新聞を読みインスタントのスープを飲んだ。まるでずっとそうしてきたかのように。ピアノの上の家族写真だけが娘の不在を主張していた。ディズニーランドでミッキーと並んで撮った写真。娘のこわばった笑顔。娘は着ぐるみが苦手な子だった。そんな娘に半ば無理矢理撮らせた写真は、果たしてただの不在通知なのか。私は娘にとって父親たりえたのか。私は、娘は‥‥
洗い物をする妻の背中に声をかけ、食卓の弁当を鞄にしまい、私は出勤した。
 いつも通り会社に娘はいなかった。同じ部の後輩の女子社員がお茶を出してくれる。
おはようございます。いつも通り十時からミーティングだそうです。」
そう、いつも通りなのだ。
 いつも通りミーティングを済ませ、いつも通り弁当を食べに公園へ行き、いつも通り午後も仕事をこなし、シナモンシュガーのパンを食べる。そして残業してから家に帰るだけだ。いつも通り、何も恐れることもない。娘が家にいるかいないかの違いで、どこかで生活しているのだ。わたしがすべきは目の前のミーティングなのだ。
 私は会議室に向かいながらマンホール埋めの進捗状況の資料をを確認した。あと三カ月で一万個。悪くない数字だった。

 マンホール埋め。そう、去年から国主導のプロジェクトとして始まったものなのだが、要はあらゆるマンホールというマンホールをアスファルトの下に埋めてしまおうということである。近年、ここ日本ではゲリラ豪雨、というものが多くなった。そして冠水した道路ではマンホールがはずれてしまい、雨水の流れの下にぽっかりとした穴をつくることになってしまう。その穴に、道行く人々が、なぜか十代の若者がほとんどなのだが、飲み込まれてしまい、場合によっては命を落とすという事故が多発しているのだ。故に穴を塞いでしまう、そういうわけだ。
 私の会社が管轄するこの町では実験的に早くからその作業に取りかかっていたため、主要な道々のほとんどのマンホールは埋め終わっていた。あと一息で今回のプロジェクトも一つの区切りを向かえる。ミーティングの前半を占める儀礼的で、いくらか長すぎる経過報告を聞き流しながら、ぼうと思いふけていると、ふと娘の線の細い後ろ姿が頭をよぎり、いやな寒気のようなものがスーツ越しの私の背中を撫でた。

 会議は進み、現在のマンホール埋めの進捗についての話題になった。後輩の女子社員がスライドを映す。
「今年は異常気象で、今までのデータを元にした予想がほとんど機能しておりません。東京地方ではすでにゲリラ豪雨が猛威をふるっています。一部の工事は中断し、地域住民への注意勧告を行うしかないかと思われます。」
様々なデータが私の寒気を加速させる。十代の若者がほとんど。ゲリラ豪雨。今年は異常気象で、天候の予想が出来ない‥‥
娘の安否が気になり、すぐにでも探しに行きたくなった。しかし今は会議中で、私は途中退席する権限など持っていない。理由もわけがわからない。娘がマンホールに落ちているかもしれないから、探しに行かせてくれ。頭がおかしいと思われる。
今にも動き出したい私の心とは裏腹に、両足は会議机の下、地に根を生やしている。まるで、膝の上にシナモンシュガーがぼろぼろとこぼれてしまっているように。